「ぱく！ぱく！ぱく！ぱく！好飽飽 胡椒餅に麺線、バーワン
マンゴー冰も外せない パパイヤミルクも——」
この歌詞は、日本と台湾にルーツを持ち、日本を拠点に活躍するシンガーソングライター洸美（ひろみ）さんの楽曲の一節です。
日本語と中国語が織りなす軽快なリズムと、どこか懐かしいメロディーが、聴く人を新しい世界へと誘います。透明感あふれる歌声は老若男女問わず人気を集め、日本各地で開催される「台湾夜市」を盛り上げる存在です。
台湾で生まれ育ち、18歳から日本に住む洸美さんは、「日本と台湾の架け橋になりたいです」と語ります。歌手を志したきっかけ、楽曲制作への思い、これからめざすことについて、じっくりと伺いました。
洸美—hiromi—プロフィール
台湾生まれ・台湾育ちのハーフ。18歳で来日。
独特の情景描写や素直な感情表現を、透明感ある歌声と共に織りなす台湾系J-popシンガーソングライター。台湾で感じた物事や景色、中国語を織り交ぜた歌詞が特徴的。
多くの台湾イベントにてテーマソングの制作と歌唱を担当。
2022年5月には「名古屋観光文化交流特命大使」に就任。
ライブをメインに、作詞作曲歌唱・ラジオパーソナリティ・ＭＣ・ナレーション・講演など、日本と台湾を中心に活動。
「歌える声優」という夢から、シンガーソングライターへ
洸美さんが歌手をめざそうと思ったのは、いつ頃からですか？
幼稚園の時にセーラームーンが大好きで、声優になりたいと思っていました。
台湾では日本のアニメが普通に放映されていて、周りの友達もみんなドラゴンボールやドラえもんなど、日本のアニメが大好きでしたね。
私が好きだった声優さんは歌も歌っていて、CDを出されていることを知りました。それを聞いて、「歌える声優」になりたい！と思ったんです。
声優になるのが夢だったんですね。
そうなんです。本格的に歌手になろうと思ったのは中学校2年生です。
その頃、一青窈さんの「もらい泣き」が大ヒットしました。一青窈さんは日本と台湾のハーフということもあり、台湾でもとても有名な方です。
当時は、歌詞に少し中国語を入れて台湾のことを歌っている曲も多くリリースされていて、それを聞いて衝撃を受けました。「歌で日本と台湾をつなぐことができるんだ」と思って。私もそのような存在になりたいと思い、歌手をめざす気持ちが固まりました。
台湾ではなく、日本で歌手をめざしたのはなぜですか？
私は日本語も中国語も話せますが、圧倒的に日本語の方が得意なんです。
日本語の方が自分の感性を言語化しやすいので、日本語で台湾の魅力を伝えようと思い、高校を卒業してすぐに東京の専門学校に2年半通いました。日本には親戚がたくさんいるので、住むことには全く抵抗はなく、むしろ「やったー！！」という気持ちでしたね（笑）
でも、専門学校を卒業したからといって簡単に歌手になれるわけではありません。そのため、在学中からライブハウスで歌手活動を開始。最初はカバー曲を歌っていたのですが、次第にオリジナルの曲も歌いたいと思うようになっていきました。学校の先生に相談しながら試行錯誤して作詞作曲してみたら、意外にすんなりと曲が書けたんです。そこからシンガーソングライターをめざすようになりました。
台湾の情景が目に浮かぶ洸美さんの楽曲
洸美さんの楽曲は日本語の中に中国語が心地よく溶け込み、台湾の情景が目に浮かぶようなメロディーが印象的です。いつ頃からこのようなスタイルに？
歌詞に中国語を入れるようになったのは、作詞作曲を始めた頃からです。一青窈さんの楽曲をよく聞いていたので、その影響が大きかったと思います。
そして、徐々に自分なりのスタイルができてきたのは、心の奥底から湧き上がる台湾の情景を描くようになったからですね。私は日本語の方が得意なので日本語を中心に曲を作ります。でも、心に思い浮かぶのはいつも台湾の風景なんです。それで、「あぁ、私の根源は台湾にあるんだな」と確信しました。
それに気付いてから、台湾の風景を日本語と中国語を交えて歌う、今のようなスタイルが確立されていきました。
洸美さん作詞作曲の「でら讃」は、名古屋人として一度聞いたら忘れられない曲です。
名古屋市で毎年開催されている「台湾・台中夜市in名古屋」のテーマソングですね。名古屋市から「名古屋と台湾のつながりを感じるような夜市のテーマソングを作ってほしい」という依頼があり、制作しました。
通常の作詞作曲は、日々の暮らしの中で「これ曲にしたいな」というアイデアを書き溜めてから作り上げるので、結構スラスラとでき上がるんです。でも、「このテーマで書いてほしい」といわれると、正直すごく悩みます。
「でら讃」の制作中も最初は何も浮かばなくて悩みに悩みました。でもある時、パチンとスイッチが入る瞬間があるんです。「あ、これだ！」みたいな。そうすると、ポンポンとアイデアが浮かんできて、逆に「早く形にしたい！」「早く歌いたい！」ってなって、めちゃくちゃ楽しくなります（笑）。
洸美さんの声は驚くほど透明感があり、どの曲も思わず最初の1フレーズから引き込まれてしまいます。
ありがとうございます。実は、発声や歌い方、パフォーマンスの仕方がガラッと変わったきっかけがありました。ジャズシンガーでありボイストレーナーでもある「安ますみ先生」との出会いです。
「あの小柄な体の、どこからこんなにも力強く伸びやかな声が出てくるんだろう？」と思うほど素晴らしいシンガーで、絶対この先生に学びたい！と思ってお願いしました。それから長年大変お世話になり、生き方や考え方までも変えていただいたんです。
大変悲しいことに数年前に他界されてしまいましたが、今の私があるのは先生のおかげです。
日本中の「台湾夜市」を駆け巡り、日本と台湾をつなぐ
今や日本各地の台湾夜市では欠かせない存在になっていますね。
ありがたいことに、各地の台湾夜市に呼んでいただいています。東京以外では、今年は神奈川、愛知、石川、富山、福島、熊本で歌わせてもらいました。こうした活動をしていると全国にファンが増える実感があり、嬉しいです。
最近感動したのは、私の歌を聴いてファンになってくださったご夫婦から「初めて台湾に行ってきたよ！」と報告をいただいたことです。彼らは1週間ほど滞在して、私の出身地である台中市にまで足を運んでくださったんです。私の歌がきっかけで台湾に興味を持ってくれたことに、とても感動しました。
まさに、日本と台湾をつなぐ架け橋を体現されていますね。
そうなれているのなら、嬉しいですね。
私は歌手活動以外に「美麗（メイリー）」という台湾カフェレストランの副店長も務めており、食を通じても台湾の魅力を発信しています。
カフェの一番人気はルーロー飯。現地の味に近づけるのではなく、日本の食材を使用し、台湾のルーローをリスペクトした上で日々アップデートしている、店長自慢の一品です。肉の食感を残しながら、口の中でコラーゲンが溶けていく食感を楽しめるように工夫しています。これからも進化を続けるルーロー飯をぜひ楽しんでください。
ルーロー飯以外にも、台湾には美味しいものがたくさんあります。「美麗」は全国の台湾夜市に出店しているので、食を通じてもつながりを感じてほしいですね。
台湾の思い出とおすすめ夜市
日本で「夜市」というとお祭りなど特別な日というイメージなのですが、台湾では日常なんですよね。
そうなんです。台湾では毎日夜市が開かれています。
幼い頃に住んでいたマンションのすぐ目の前に夜市がありました。夕食後に家族で夜市に行って輪投げをしたり、スイーツを食べたり、そんな思い出がありますね。私が子どもの頃は町のあちらこちらで小さな夜市が開かれていたので、夜市がある風景は本当に日常でした。
私は18歳から日本に住んでいますが、今でもふと「あー、今すぐ夜市に行きたいな」って思うことがあります。ちょうど、今のように気候がいい秋の夜などは特に。仕事帰りにフラッと寄ってご飯を食べたいなとか、オフの日の夜にちょっとゲームできたらいいのになとか。
日本も夜市が文化になるといいですね。台湾のおすすめ夜市はありますか？
たくさんありますよ。台北では饒河街夜市（ラオハージエ・イエシー）がおすすめです。
道が広いから歩きやすい上に、一本道なので初心者でも迷いにくいのがポイントです。店舗数も多く、食べ物はもちろん、服や雑貨もたくさん揃っています。入口には有名な胡椒餅のお店がありますよ。
饒河街夜市は、私が作詞作曲した「365日の夜市」のPVにも登場しています。
台中なら逢甲夜市（フォンジャー・イエシー）ですね。
大学の近くにあるので、食べ物やファッションの流行りものをいち早く取り入れたお店が並んでいて、「今台湾ではこれが流行っているんだな」ということがよく分かります。どんどん新しいお店が入ってくるので、何度行っても飽きないですよ。「朋友」のPVにも登場しています。
さらに活動の場を広げ、日本と台湾の架け橋に
今後はどのような活動をしていきたいですか？
基本的な目標は変わらず、目標は日本と台湾の架け橋になることです。それをより多くの場所で体現したいですね。
日本全国で行われる「台湾夜市」のイベントに呼ばれ、47都道府県を制覇するとか。
私の歌と、「美麗」の食のセットで台湾の魅力を伝え、よりたくさんの人に興味を持ってもらいたいと思います
これからもっと台湾に興味を持つ人が増えるといいですね。
そうですね。台湾に興味を持つきっかけは人それぞれだと思います。歌だったり、食だったり、雑貨だったり。
もし少しでも興味を持ったら、恐れずに台湾の人に話しかけてみてほしいです。台湾旅行に行った時でもいいし、日本で台湾の人に会った時でもいい。台湾の人の多くはフレンドリーなので、一歩踏み込んで親しくなると、本当に素晴らしい体験ができます（笑）。
まるでファミリーかのように大切にしてくれるし、困った時には親身になって助けてくれます。人と関わるほど、台湾が好きになると思います。
洸美さんは歌手として活動の幅を広げているとか。
近年は映画の主題歌や挿入歌を担当させていただき、「恋恋豆花」では本人役として出演もしました。
日台交流を深めると同時に、自分自身の活動の幅を広げていき、さまざまな人に出会いたいですね。
そして、さらにパワーアップした楽曲を皆さまにお届けしていきます。
シンガーソングライター 洸美 hiromi
オフィシャルサイト
公式Instagram
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台湾カフェレストラン 美麗（メイリー）Instagram
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